月夜の翡翠と貴方
隙、全力で、貴方の素顔
「お、恐ろしいっ………」
リロザが、グラスを持った片手を震わせて、情けなく声を上げた。
男達を縄で縛ったあと、すぐに馬車を走らせ、今は宿。
目的の小店へは、明日の昼頃着くらしい。
今は、部屋の一室で食事中である。
カチャカチャと、食器の音が響く。
「何を今更」
ミラゼが呆れたようにリロザを見た。
リロザは、昼の戦いを見て、ひどく怖気づいたらしい。
「なっさけないわねぇ、仮にも有名貴族の次男が」
なみなみとグラスに注がれたワインを、ミラゼが気持ちよく飲み干していく。
実に飲みっぷりがいい。
「それは、お前達は慣れているだろうが…私は初めてなのだぞ。目の前で、剣を振りあっているところなど…」
ああ、恐ろしい、とリロザが青ざめた顔で言う。
「普通あんたより、ジェイドちゃんのほうが怖かったでしょうよ。ね、ジェイドちゃん」
ミラゼがフォークに、溶けかけたチーズののったハンバーグの一切れを刺して、こちらを見た。
「え?………あ、ああ」
ふたりの会話をぼうっと見ていたからか、反応が追いつかない。
「大丈夫?仕方ないわよね。あんな目に遭って…しっかり守れなくてごめんなさい」