月夜の翡翠と貴方
「…いえ。私はなんとも思ってないので、大丈夫です。ありがとうございます」
第一、私はあれ以上の恐怖をずっと前から知っている。
「ミラゼさんには…あのとき、タイミングよくナイフが飛んできたので、とても感謝しています。助かりました」
淡々とお礼を返す私に、リロザが目を見開いた。
「ジェイドさん貴女は…き、肝が座っているというか…凄いな」
「ありがとうございます」
「あんたより、ジェイドちゃんのほうが何倍も男らしいわね」
演技も大したものだったし、とミラゼが息をつく。
そして、ある人物を見た。
「…で、あんたが喋らないのは気持ち悪いんだけど、ルト」
呼ばれた私の主人は、「ん?」と何気ない顔でこちらを向いた。
「え、何。俺が何か?」
「...いや、あんたが喋らないのは珍しいから」
「そ?」
本当に、いつも通り笑っている。
しかし私の前に座るルトは、宿に入ってから全く喋らなかったのだ。