月夜の翡翠と貴方
...確かにあのときは、少しだけ彼女を恨んだけれど。
私は静かに、首を横に振った。
「…ミラゼさんは悪くないです。仕方なかったですし…知ってしまった事、ルトに黙っていた私も悪いので」
ミラゼは悪くない。
私だって、こうなることはわかっていたのだ。
確実に、ろくなことにはならないと。
本当に知りたくなければ、あのときミラゼから聞かなければ良かったのだ。
なのに、聞いてしまった。私は耳を塞げなかった。
その欲こそ、今自分に返ってきている。
静かに俯いた私を、ミラゼはじっと見つめた。
「…仕事のこととはいえ、あなたたちは本当に不思議な関係ね。仲が良いように見えるのに、互いの事を知らないなんて」
仲が……
良いように、見えるのか。
「本当ですね………………」
私達は、他人から見たらおかしな関係なのだろう。
私は月を見上げ、ぽつぽつと言葉を紡いだ。
「………私、今日の昼の戦いを見て、とても驚きました。ルトがだいぶ身軽な男なのはわかっていましたが……あんなにまで、なんて」
思い出す、男達の首を勢いよく蹴って行くルトの右足。
身軽に動く体。
……獣のような、深緑………。