月夜の翡翠と貴方

...確かにあのときは、少しだけ彼女を恨んだけれど。

私は静かに、首を横に振った。

「…ミラゼさんは悪くないです。仕方なかったですし…知ってしまった事、ルトに黙っていた私も悪いので」

ミラゼは悪くない。

私だって、こうなることはわかっていたのだ。

確実に、ろくなことにはならないと。

本当に知りたくなければ、あのときミラゼから聞かなければ良かったのだ。

なのに、聞いてしまった。私は耳を塞げなかった。

その欲こそ、今自分に返ってきている。

静かに俯いた私を、ミラゼはじっと見つめた。

「…仕事のこととはいえ、あなたたちは本当に不思議な関係ね。仲が良いように見えるのに、互いの事を知らないなんて」

仲が……

良いように、見えるのか。


「本当ですね………………」


私達は、他人から見たらおかしな関係なのだろう。

私は月を見上げ、ぽつぽつと言葉を紡いだ。

「………私、今日の昼の戦いを見て、とても驚きました。ルトがだいぶ身軽な男なのはわかっていましたが……あんなにまで、なんて」

思い出す、男達の首を勢いよく蹴って行くルトの右足。

身軽に動く体。

……獣のような、深緑………。


< 316 / 710 >

この作品をシェア

pagetop