月夜の翡翠と貴方
「…………」
手ぐしで、髪を梳く。
そうしていると、様々な事が頭を駆け巡った。
ミラゼとの話。
ルトの瞳。声。
妖艶な笑み。
感覚。
…首筋が、少し熱い。
呆然と宙を見ていると、部屋の扉からコンコン、とノックの音がした。
「…………はい」
扉が開き、見えたのは、ミラゼのニッコリとした笑顔だった。
「おはよう、ジェイドちゃん」
………実に、恨めしい笑みである。
「…おはようございます…」
私の沈んだ声に、ミラゼは益々明るく声を出した。
「朝食にしましょ。そのあと、出発だから」
「……あ………はい」
のそのそと寝台から降りる。
待ってくれているミラゼに、私はひとつ問いかけた。
「あの……ルトは」
どこで見張りをしていたのだろうか。
「ルトなら、もう朝食の席にいるわよ。見張りを交代してから、一度も部屋に戻らなかったみたいだけど、何かあった?」
ふふ、とお得意の笑みを浮かべるミラゼ。
このミラゼという女に、もう二度と油断するまい、と思った。