月夜の翡翠と貴方


「いえ、なにも」

はっきりと言い放つと、ミラゼはそう?と楽しそうに笑った。






「それでは、出発するか」


宿を出て、馬車に乗り込む。


「これから行きますと、きっと昼過ぎには着くでしょう」

「うむ」

ムクギの言葉に、リロザはやけに大きく頷いた。

「どうされたのですか」

「いや……なにもないぞ」

横に座るリロザは、木箱を抱きしめ、ひたすらに前を向いている。

…きっと、怖いんだろう。

まだ、道中でなにが起こるかわからない。

「頑張りましょうね」

私がそう微笑むと、リロザは「うむ」と今度は締まり良く返事をした。


そうして、馬車が動きだす。

相変わらずのリロザとムクギの会話を聞きながら、私はもやもやと考え事をしていた。

今朝、朝食の席でルトと顔を合わせた。

そこで、私は落胆した。

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