月夜の翡翠と貴方
「いえ、なにも」
はっきりと言い放つと、ミラゼはそう?と楽しそうに笑った。
*
「それでは、出発するか」
宿を出て、馬車に乗り込む。
「これから行きますと、きっと昼過ぎには着くでしょう」
「うむ」
ムクギの言葉に、リロザはやけに大きく頷いた。
「どうされたのですか」
「いや……なにもないぞ」
横に座るリロザは、木箱を抱きしめ、ひたすらに前を向いている。
…きっと、怖いんだろう。
まだ、道中でなにが起こるかわからない。
「頑張りましょうね」
私がそう微笑むと、リロザは「うむ」と今度は締まり良く返事をした。
そうして、馬車が動きだす。
相変わらずのリロザとムクギの会話を聞きながら、私はもやもやと考え事をしていた。
今朝、朝食の席でルトと顔を合わせた。
そこで、私は落胆した。