月夜の翡翠と貴方


…ルトは、今なにを考え、何を見ているのだろう。





着いたのは、森を抜けて町の郊外に並ぶ店と店の間にある、狭い隙間に埋め込まれた扉の前だった。


「…え、ここ?」

ルトが馬車の上から降りて、古ぼけた扉を見つめる。

「ここだ」

リロザは馬車から降ると、堂々とした態度で扉の前に立った。

脇には、しっかりと木箱が抱えられている。

ここに来るまでなにもなかったせいか、リロザの顔には貴族としての自信が戻っていた。


「では、行くぞ」


リロザが扉を開く。

すると、地下らしき階段が目の前に現れた。

下は暗く、なにがあるのかわからない。

「すげぇな」

ルトが感心したように声を漏らした。

「知り合い間の店だからな」

確かに、訪れた客を歓迎しようという気が全くないのがわかる。


リロザを先頭に、ルト、私、ミラゼ、ムクギの順に、階段を降りていった。


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