月夜の翡翠と貴方
カンカン、と靴の音が響く。
そして、リロザが階段を降り終えた。
ルトの肩越しに見えるのは、扉。
どうやらその扉が店への入り口らしく、リロザは静かにそれを開いた。
一気に明るくなった視界から見えたのは、飾り気のない店内だった。
壁に沿っておかれた棚には、いくつもの上等な絹織物が置かれている。
白の壁で、全体的に素朴な印象を与える内装だ。
リロザが店内へと歩みだし、辺りを見回す。
店主の姿はない。
「ユティマどのー、エルフォードのリロザだ。約束のものを持ってきたぞ」
リロザが女店主の名を呼ぶが、返事はない。
「ユティマどの、おられないのかー」
全く姿を現さない女店主に、ミラゼは怪訝な顔をした。
「出かけてるんじゃないの?」
ミラゼの言葉に、ムクギが「いえ」と言う。
「ここの店主は酷くマイペースなので、店内に彼女の姿がないのはよくあることです」
たったひとりで店を経営する店主が、そんなかんじで大丈夫なのだろうか。