月夜の翡翠と貴方
リロザが、店の奥へ繋がっているらしい、奥の扉を開ける。
ひとりで、中へ入った。
その瞬間。
「………….うわっ…………」
ー...声と、大きな物音がした。
「リロザ!?」
「…っ離せっ…………!」
扉の奥から、リロザの切羽詰まった声が聞こえる。
かろうじてその扉の隙間から見えるのは、苦しげな顔をしたリロザと…もうひとりの、男。
…なにかを、奪い合っている。
「誰だ!」
扉の前で叫び、扉の奥を見たルトの顔に、焦りが現れた。
私の横で、扉を睨んだムクギが舌打ちをする。
…一気に張りつめる、場の空気。
ルトとミラゼが、扉の前から一歩後ずさった。
扉が、キィィ...と静かに開いていく。
そして見えたのは、藍色の髪を後ろに束ね、得意げに口元を吊り上げた、細身の男だった。
その右手には……木箱が掲げられている。
「はは!馬鹿な貴族どもめ!来るのがちょいと遅れたなぁ!」
そう言って高笑いをする、その男の横には、悔しげに顔を歪めるリロザの姿があった。