月夜の翡翠と貴方


「どうする、嬢ちゃん?」


男は余裕の笑みで、こちらを見てくる。

私がキッと睨んだ瞬間、男の手に握られていたナイフが、こちらに振りかざされた。

「!」

咄嗟に避けると、男は「おーおー」と茶化すような声を出した。

「避けられるたぁ、嬢ちゃん見かけによらず凄いねぇ」

....舐めてもらっては、困る。

しかし、このままでは確実にまずい。

焦り、冷や汗が浮かぶと同時に、男のナイフがまたも向かってきた。

「……………っ」

後ずさり、寸前でかわす。


危険。


私の中で、しばらくの間感じなかった、危険信号が鳴り始めた。

このくらいなら、何度も経験したことはあるけれど。

相手の男に、容赦はない。

小さくだが、こちらへ歩み寄って来る。

ナイフを何度も振りながら。

…仕方ない。

寸前でかわしながら、一歩、一歩と男の歩みに合わせて後ずさる。

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