月夜の翡翠と貴方


すると、後ろの方で剣を持っている男が、私の存在に気づいた。


「!」

こちらが先に、動かなければ。

その男の脇をすり抜け、急いで走る。

その瞬間、先に私の行く手を阻んでいた男のナイフが、避けきれずに私の顔を掠めた。


「.....っ、」


左頬に、鋭い痛みが走る。

しかし、構ってられない。

ルトには悪いが、もう私ひとりで馬車へ戻ることは出来そうになかった。

もう、逃げ回るしかない。

「………っ」

店の奥の扉の前で、依然藍色の髪の男に襟を掴まれ、震えているリロザと目が合う。

リロザは私の頬を見て、目を見開いた。

そしてその瞳に確かな怒りが宿ったのが、こちらから見て取れた。

男のナイフをよけながら、必死に逃げ回る。

ちらちらと、リロザの様子を伺う。

ルトも私に気づき、悔しげに顔を歪めた。


そのとき、リロザが動いた。

震える体を抑えながら懐から取り出したのは…あの短剣。

…なにを、する気だ。

そう思った瞬間。


彼は男の脇腹に、短剣を思い切り突き刺したのだ。


「!!」

リロザを人質にとったことで完全に油断しきっていた男が、痛みで顔を歪める。



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