月夜の翡翠と貴方
しかし、やはり住んでいるのがひとりだけなせいか、この広さが逆に空虚なものに感じられた。
…あ。
そこであることに気付き、立ち止まった。
…女店主は、どこにいるのだろうか。
今まで必死で走ってきて、考えなかったが、女店主の姿がない。
私達が来る前、ここは占拠されていた。
もし、出かけたりしていないのであれば…
嫌な、予感がした。
後ろを振り返る。
だいぶ入り組んだ場所に入ったためか、男が来る気配はない。
休むためにすぐ近くの扉を開き、部屋へ入った。
この部屋は、書物庫のようだ。
念のため本棚の影に潜んで、座り込む。
息を整えながら、木箱を抱きしめた。
咄嗟に走ってきてしまったが、向こうは大丈夫だろうか。
木箱という大事なものを、私が抱えていいのだろうか。
様々な不安が駆け巡るが、今はこの状況を受け止め、木箱を死守することが大切だ。
…女店主も、無事だといいのだが。
そう思いながら、左頬に触れる。
傷口から出ていた血は、もうだいぶ乾いていた。