月夜の翡翠と貴方
「……………」
...仕方、ないことだから。
私は頬から手を離すと、長い髪に触れた。
あのとき、確かに髪の切れる音がした。
男のナイフが、掠めたせいだろう。
.....悔しいなどは、思わない。
自分の髪に対しての執着は、ない。
ふぅ、と息をつくと、立ち上がった。
あまり、長くは休んでいられない。
部屋を出て、辺りを見回す。
近くの階段を見るが、誰もいない。
近くにいれば怖いが、いないのはそれはそれで恐ろしい。
…どこに潜んでいるのか、わからない。
下手に動けないな、と思った。
ナイフを握りしめる。
不安になると、ついそうしてしまう。
そこで、声が聞こえた。
「……ー…ド!」
…ルトの、声だ。
私を呼んでいるのがわかる。
店内での戦いが終わったのだろうか。
どこにいるのだろう。
ここは、入ってきたところからだいぶ遠いから。
とにかく、合流する方がいいだろう。
そろそろと、辺りを警戒しながら階段を降りる。