月夜の翡翠と貴方
来た道を確実に覚えているわけではないが、ルトの声がする方を頼りに、歩みを進めた。
どくん、どくん、と心臓の音がやけに大きく聞こえる。
広い空間の、気味の悪いぐらいの静寂が、私の不安感を煽る。
辺りを見回しながら歩いていくと、段々とルトの声が大きく聞こえるようになった。
近くに、いる。
そばの階段を降りていくと、一階に開け放たれた扉が見えた。
その部屋の一室から、声が聞こえる。
隙間から、茜色のポニーテールが見えた。
「ー…ミラゼさん!」
思うより早く、口から声が出た。
ミラゼが、声に気づいて部屋から出てくる。
目が、合う。
お互いに安堵の表情が見えた、そのとき。
「おっ、やっと見つけた、碧の嬢ちゃん」
男の声が、した。
声のしたほうを見ると、二階の廊下から、こちらを見つめている男がいた。