月夜の翡翠と貴方
白、幸せ、奴隷と主人
「じゃあ、店主。買ってくね」
奴隷屋のテントの前で、青年はにっと笑ってそう言った。
彼の隣には、俯いていて表情のわからないファナがいる。
「……はい」
…先程、テントの裏で何があったのか。
突然、水に濡れた状態で店に入ってきたかと思えば、『あの娘を』と笑って言ってきたのだ。
しばらくして、やはり水を被ったファナが戻ってきた。
…彼女の表情は、六ヶ月前俺の店へやってきたときと、同じものだった。
何も感じることのないように、心の芯を閉じて。
無表情の瞳には、まるで何も映していないようだった。
彼女の髪は、もうほとんど乾いている。
フードを被っていないせいで、太陽の光に反射して、キラキラと輝いていて。
テントの前を通り過ぎる貧しい人々が、無遠慮な目でファナの美しい髪を見ていた。