月夜の翡翠と貴方
俺が軽く睨むと、人々は慌てたようにファナの髪から目線を逸らした。
…こんなことも、もう出来ないのか。
「これ、金ね」
じゃら、と音がした。
見ると、青年が懐から片手に収まるぐらいの、小袋を自分に差し出している。
受け取ると、やけに重いと感じた。
失礼します、と言い中身を見て、目を見張る。
「こんなに………」
「それについては、何も言うな。黙って受け取って欲しい」
そう言われては、仕方ないのだが…
奴隷の売値に、定価などない。
大体の相場が決まっているぐらいで、細かな代金について、店主はいくらか訊かれるまでは買い手に任せている。
…しかし、この額は。
青年の差し出した小袋のなかには、銀貨に混じって金貨まで入っていた。
確かに、ファナのように見目の良い奴隷には、雑用に使われるような奴隷よりも高値がつくものだが。