月夜の翡翠と貴方
ルトの笑顔から目を離し、目の前のグラスに映る自分の顔を見つめる。
言い聞かせて。私に。
お前は、奴隷なのだと。
ぼぅっと酒場を見渡していると、隣からパシャ、という水音がした。
「わーっ、ルト、ごめん!」
隣を見ると、ルトの隣に立った小柄な女が、ルトを見てグラスを片手に慌てている。
見ると、ルトの上着の胸元がびっしょりと濡れていた。
どうやら、彼女がグラスの液体をかけてしまったらしい。
どうしよう、と慌てる女に、ルトが笑って「大丈夫」と言った。
「これ、何?」
「み、水」
「それなら乾かせばいいから、気にしなくていーよ」
女がほっとした顔をする。
ミラゼが、カウンターからこちらへ向かってきた。
「風の当たるところにかけておくから、上着、貸してちょうだい」
「ありがと」
ルトが橙の上着を脱いで渡すと、ミラゼはカウンターの奥へ消えていった。