月夜の翡翠と貴方


薄着になったルトに、女が再度謝る。

「気にしなくていーって。酒入ると暑いし。な?」

ルトのカラッとした笑顔に、女は安心したように笑って「ありがとう」と言うと、もといたところに戻って行った。

ふー、と息つく彼を見て、素直に凄いな、と思った。

こういうとき、落ち着いた態度で対応し、相手を安心させることもできる。

私は再びグラスへ目を向けると、小さくため息をついた。

ルトは人付き合いが上手く、器用だ。

明るい笑顔を向けられると、簡単に心を開いてしまうのだ。


....そう。

勘違い、してしまう。

心を開いて良い相手なのだと、こちらは歓迎されているのだと。

…自惚れて、しまうのだ。







カウンターの奥の扉を開け、薄暗い部屋に入る。

酒場の騒がしい空気から離れたその部屋は、彼女の私室であり、生活を営む場所でもあった。

カン、カン、と小さく音を鳴らしながら、ミラゼは手前の階段を上がる。

階段を上がり終えると、見えるのは奥のテラス。

月明かりが白く伸びる部屋を、静かに歩いた。


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