月夜の翡翠と貴方


テラスの扉を開けると、酒場の熱気に慣れた身体が夜風に冷まされる。

ふぅ…と息を吐くと、テラスの竿に、ミラゼはルトの橙の上着をかけた。


風が吹き、布地がなびく。


すると、上着から紙が一枚、カサ、と音を立てて落ちた。


「…何かしら」


呟き、四つ折りの紙を拾う。

見て良いものなのかはわからないが、拾ったときに折られた隙間から見えた文字を見て、ミラゼは衝動的に紙を広げた。


…『依頼書』。


紙の上部に書かれたその文字が、広げたものの下を読むことを躊躇わせる。

「…別に、私が知ってどうこうなるわけじゃないしね…」

誰に向けるでもなく呟くと、内容を知りたいという欲求に駆られ、ミラゼはゆっくりと下へ目を向けた。

知りたい、とは思っていた。

ルトとジェイドは、『用事があって一緒に旅をしているだけ』と言ったが、確実にそれだけではないことはわかっていた。

ルトは何も言わず、ジェイドは言葉をつまらせるだけ。

仕事の守秘義務かとも思われたが、ジェイドはルトの仕事を知らなかった。

そして、ルトもわざと教えていなかった。


< 373 / 710 >

この作品をシェア

pagetop