月夜の翡翠と貴方
テラスの扉を開けると、酒場の熱気に慣れた身体が夜風に冷まされる。
ふぅ…と息を吐くと、テラスの竿に、ミラゼはルトの橙の上着をかけた。
風が吹き、布地がなびく。
すると、上着から紙が一枚、カサ、と音を立てて落ちた。
「…何かしら」
呟き、四つ折りの紙を拾う。
見て良いものなのかはわからないが、拾ったときに折られた隙間から見えた文字を見て、ミラゼは衝動的に紙を広げた。
…『依頼書』。
紙の上部に書かれたその文字が、広げたものの下を読むことを躊躇わせる。
「…別に、私が知ってどうこうなるわけじゃないしね…」
誰に向けるでもなく呟くと、内容を知りたいという欲求に駆られ、ミラゼはゆっくりと下へ目を向けた。
知りたい、とは思っていた。
ルトとジェイドは、『用事があって一緒に旅をしているだけ』と言ったが、確実にそれだけではないことはわかっていた。
ルトは何も言わず、ジェイドは言葉をつまらせるだけ。
仕事の守秘義務かとも思われたが、ジェイドはルトの仕事を知らなかった。
そして、ルトもわざと教えていなかった。