月夜の翡翠と貴方
「後悔するのは、あなたでしょう……」
どこか憂いを滲ませたミラゼの言葉は、誰に届くわけもなく、夜風にさらわれて消えた。
*
翌日の朝、南門から出発する私たちを見送るため、ミラゼと酒場で知り合った数人が来てくれた。
友人達がルトと話している間、私はミラゼに呼ばれた。
「ジェイドちゃん」
「はい」
色々とミラゼには言いたいことがあるように思えるが、言っても仕方ないことはわかる。
ルトから離れ、そばにいくと、ミラゼは懐から鞘に収められたナイフをひとつ取り出した。
「これ、ジェイドちゃんにあげるわ」
「え…」
差し出された上等なナイフに、受け取るのを躊躇う。
「使うときが来るかはわからないけど、またこれで自分の身を守ってちょうだい」
ふふ、と優しい笑みを浮かべるミラゼ。
「………………」
いいのだろうか。
私は、これを受け取って。
「ね」
ミラゼの優しく、それでいて有無を言わさない声色に、私はおずおずとそれを受け取った。