月夜の翡翠と貴方
明日売れることもあれば、今日売れることだってある。
いつ、誰が、どんな人間に売られ、やってくるのか。
そして、いつ、誰が、どんな人間に気に入られ、買われていくのか。
それは、誰にも予想出来ないもので。
青年は横目に隣のファナを見ると、ひとつため息をつき、「んじゃ」と言った。
未だぼうっとしているファナの手を掴み、彼は通りへ歩いて行く。
碧色の髪を揺らして、後ろをついていく奴隷の少女。
…昨日まで近くにいたものが、突然もう、二度と会えないものになる。
現実味が湧かなくて、複雑な、感情で。
俺はその後ろ姿に向かって、声を出した。
「ファナ」
驚き振り返った彼女に、何も言わずただ優しく微笑む。
ファナは、一瞬驚いたように目を見開いて。
…少しだけその瞳に涙を浮かべて、とても美しく微笑んだ。
そしてこちらに背を向け、もう二度と振り返らなかった。
*
エルガの目には、色々な感情が入り混じっているようだった。
『頑張れ』って言葉だけ、しっかりと感じた。