月夜の翡翠と貴方


....どうして、こんな。

私が目の前の光景に立ちつくしていると、ルトは眉を寄せながらも前に進み始めた。


「………とりあえず、十字架を探すか」


...十字架の紋章は、福祉の意味。

教会を示すものでもあるが、多くの施設ではこの紋章が用いられている。

つまり、十字架の紋章があるところには、治療を受けられる医者か道具が揃っているということだ。

村を歩いていると、路上に居座る男や女、子供までもがこちらをじろじろと品定めするように睨んできた。

ルトを見ると、そんなことを気にする余裕もないのか、左腕を押さえながら十字架を探している。

....もうそろそろ、痛みも限界だろう。

私も十字架を探そうと辺りを見回すと、ある一点に目がいった。


…奴隷屋だ。


路上にある、薄汚れたテント。

その横には、辺りを睨みつけるように鋭い目をした、怪しい男が座っている。

....この村には、奴隷屋がある。

それは、治安が悪く、村が貧しい証だった。

入り組んだところに入り、益々人気がないところに出る。


「………あ」

ルトが、何かを見つけた。

指差したところには、十字架の紋章。

とても古い建物の扉の横に、掠れた十字架が見える。

ツタの絡みついているのを見ると、管理が行き届いていないというのがわかった。


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