月夜の翡翠と貴方
「すみませーん………」
ルトがトントン、と扉をノックする。
しかし、返事はない。
扉を開けようとするが、錠が錆び付いているのか、開かなかった。
「…どーなってんだ…」
ルトが眉を寄せて、建物を見つめる。
すると、近くから足音が聞こえた。
「あんたら、医者に用があんのかい」
掠れた、女の声。
振り返ると、こちらを静かに見据える、杖をついた老婆の姿があった。
「………あ、はい」
ルトが返事をすると、老婆はふぅ、と息をついた。
「残念だが、この村には治療という治療を受けられる場所はないよ」
「え……………」
ルトが戸惑った声を上げた。
治療を受けられる場所が、ない…?
そんな村が、あるのか。
「その建物は、半年前に封鎖されたよ。医者が何処かへ行ってしまってね」
「……じゃあ、ここの村人はどうやって…」
病や怪我を治しているのか、というルトの問いに、老婆は静かに答えた。