月夜の翡翠と貴方
「この村を出て隣町まで行くか、そのまま死ぬか…だねぇ。まぁ、ディアフィーネは近隣の街が遠いからね。隣町へ行くまでに、力尽きる者がほとんどだよ」
…ペルダイン特有の村だ、と思った。
信じられないほどに、治安も管理も悪い。
領主は何をしているんだ。
老婆は驚いて何も言えない私達を見ると、皮肉げにふっと笑った。
「上層部の貴族様方なら、医療なんていくらでも充実してるだろうがねぇ。最も、あたしら村人は情けすらかけてはもらえんがね」
それだけ言うと、老婆は私達を一瞥したあと、杖でよたよたと通りの方へ歩いていった。
「治療が受けられないって…どーすりゃいいんだよ…」
ルトが長い溜息をついた。
やっと二日かけてこの村に来たというのに、医者がいないなんて。
「…宿、とるか」
そう言ったルトの顔には、明らかな疲れが見えた。
.....彼はこの二日、寝ていないから。
「...うん」
今は、宿で休むのがいちばんだろう。
何者かに狙われている、という常に気を張っていないといけない状況で、左腕の負傷をそのままにしておくのはまずい。