月夜の翡翠と貴方
「次の街まで、どのくらいあるの?」
宿に向かいながら訊くと、ルトは「んー…」と気の遠そうな目をした。
「…けっこう、距離あるな」
...これは、だいぶ遠いということだろう。
「そっか………」
先ほどの老婆の言葉を思い出す。
『上層部の貴族』と言った。
ということは、この村の何処かに、貴族家の邸があるということか。
そこに、領主の邸もあるかもしれない。
辺りに目をやると、役人らしき者が、村人の家の前で、戸をどんどんと叩いているのが見えた。
取り立てにきたのだろう。
役人はいるのに、村がこんなに貧しいのは、やはり領主の取り立てが厳しいということだ。
身分の格差が激しすぎる。
自分のことしか考えていないのだ、ここの領主は。
宿を探していると、比較的若い女がふたり、家に向かって怒声を発している役人を見て、ひそひそと話をしながらこちらへ歩いてきた。