月夜の翡翠と貴方


「オリザーヌ家が領主になってから、いつもあんな光景をみせられて…最悪だわ」

「いつ私達も取り立てを納められなくなるかわからないし…ああ、恐ろしい」


その会話が気になって、「あの」と思わず声をかけてしまった。

突然に声をかけられた女達は、訝しげにこちらを見る。

「あ…えっと…宿、ってどこにありますか」

咄嗟にでた質問だったが、実際に宿があるのかさえわからなくなっていたので、ちょうど良かった。

ルトが私の様子に気づいて、「どした?」といいながらこちらへ来た。


ルトの姿を見た瞬間、女達の頬が赤く染まる。

女のひとりが、私の後ろにいるルトをちらちらと見ながら、宿の場所を教えてくれた。

「宿、あるんですね。ありがとうございます」

ルトが礼を言うと、女がぽっと顔を朱に染めた。

.....どこの女も、容姿の良い男には甘いようだ。

すると、もうひとりの女が、役人のほうを眉を寄せてちら、と見た。

「…宿に行かれるのかしら?」

「はい」

「大丈夫だとは思うけれど、宿の料金は一泊するだけでも凄く高いと聞きますわ。商売していると、取り立ても多いですから、高くしないとやっていけませんの」


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