月夜の翡翠と貴方
私はすぐさま被ったフードを抑え、その場から飛び退く。
ルトはその拳をなんなく避けると、躊躇いなく、脇腹に剣をかすらせた。
噴き出す血。
痛みに顔を歪めた男が、ルトを睨む。
しかしそれ以上剣を振るうことせず、ルトは剣の切っ先を男の鼻先にずいっと近づけた。
男が目をむく。
....きっと、この光景に益々怯えた少女を気遣ってのことだろう。
ルトも、左腕をかばって動いている。
「早く去れって言ってんの。斬り殺すぞ」
躊躇なく出された言葉と、暗い深緑に、男達が怯んだ。
チッと舌打ちをし、すごすごとその場から去っていく。
最後まで男達に鋭い視線を送っていたルトは、完全にその姿が見えなくなると、剣を下ろした。
「……はぁ。めんどくせ」
呟くと、少女を見て、「大丈夫?」と声をかける。
今のこの光景だけ見れば、ルトもそれなりには王子様っぽく見えなくもない。
外見だけ見れば、充分なくらい『王子様』であるというのに、呟いた『めんどくせ』で全て台無しである。