月夜の翡翠と貴方
....しかし生憎と、私はそれを見逃してやるような優しさは持ち合わせていない。
「…今、お邸と言いました?」
静かにそう言うと、少女は気まずそうに目を逸らし、頷いた。
「....治療のできる、お医者様がいらっしゃるのですか?」
「……ええ」
何処か気品のある声と、上品な召しもの。
さらには『お邸』という言葉に、私は確信した。
私の容赦ない問いに、ルトが戸惑った顔をしている。
…悪いが、私はそんな、甘く優しい女ではないのだ。
私はルトの左腕を思い切り掴ると、少女のほうへ向けた。
「いっ…………てぇ!」
ルトが堪らず声を上げる。
彼は矢がかすめた瞬間以来、『痛い』と口にしていなかった。
ルトの声と私の行動に、少女は驚きを隠せない。
「では、お願いできますか?実は、治療を求めてこの村に来たというのに、医者がいないと知って困り果てていたのです。よろしければ、お願いします」
淡々と告げ、私は頭を下げた。