月夜の翡翠と貴方
そう疑ってしまうような、空間と、少女。
そこで、薔薇の水やりをしている、正装姿の年老いた男が見えた。
「ノワード」
セルシアが呼ぶと、男は目を見開いて叫んだ。
「お嬢様!」
ノワードの大声に、セルシアが「しっ!静かにしなさい」と咎める。
口調からして、このノワードという男は、執事のようだ。
セルシアが彼のもとへ行くと、彼は複雑そうな顔をする。
「どこにいらっしゃったのですか…!邸中が騒ぎになったのですよ!二度としないでくださいとあれほど…」
「お説教はあとにして!あの方の腕の治療をしてちょうだい」
セルシアが、どうしていいかわからず立ち止まっていた私達を指差した。
「旅のお方ですか?」
「そうみたい。先程危ない目に遭っていたところを、助けて下さったのよ」
「危ない目!?」
目をつり上げたノワードを、セルシアが「あとで話すわ」とたしなめる。