月夜の翡翠と貴方


黙ってルトの傷を見ていたセルシアは、眉を寄せ悲痛そうな目をしている。

「…あなた…大丈夫?」

セルシアの言葉に、ルトは痛みで顔をしかめながら、それでもなお笑って返事をした。

「大丈夫。慣れてるんで」

「慣れてるって…」

彼女の顔が、段々と青くなっていく。

私は静かに、ふたりのやりとりを見つめていた。


....『慣れてる』、か。

リロザの件での男達との戦いを思い出し、それも仕方ないな、と思う。

ルトはあのような戦い、何度も経験しているのだろう。

それでも、痛みは経験に関係なく襲ってくる。

その痛みを想像すると、気遣いの言葉さえ容易く言えない気がした。


「はい。出来ましたぞ」


綺麗に包帯が巻かれると、ルトは脱いでいた上着を着た。

「ありがとうございました。突然押しかけてしまいすみません」

ルトが笑うと、ノワードは「いえいえ」と優しい笑みを浮かべた。

「こちらこそ、セルシア様を助けてくださって、ありがとうございます」

そうルトに言うと、じろ、とノワードはセルシアを見た。


「ところで、お嬢様?どうして邸から逃げたりされたのですか」


顔は笑っているが、目が笑っていない。


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