月夜の翡翠と貴方
呼ばれたセルシアは、罰が悪そうにノワードから目を逸らす。
「だって……………」
「だってじゃありません。今日の夕方、ロディー様ご一行がいらっしゃるのですよ」
「わかってるわよ。もう…」
唇を尖らせるセルシアに、ノワードは溜息をついた。
そして、私とルトを見て、「では」と言う。
「また、明日ここへ来てくださいますか?薬の経過を見たいのです。私はいつも庭で水やりをしていますので、お声をかけてくだされば」
「わかりました。ありがとうございます」
ルトが礼をすると、ノワードは微笑んで私達を邸の外へ見送った。
*
「…ジェイド、大丈夫か?」
上層から下層への階段を降りる。
ぼうっとしていたら、ルトがそう声をかけてきた。
「…なにが?」
前を向きながら、平坦な声で返事をする。
「…なんか、気分悪そうだったから」
その言葉に、私は驚いてしまった。
気づいて、いたらしい。
「…大丈夫だよ。気にしないで」
まつげを伏せて、たん、たん、と音を鳴らして階段を降りる。