月夜の翡翠と貴方
「………そうか」
それきり、会話がなくなってしまった。
もとから気まずい雰囲気を漂わせていた私達である。
けれど、その沈黙を破ったのは、ルトを見ようとしない私だった。
「…なんか、しゃべって」
小さく、か細い声。
ルトが隣で、聞き返そうとしたのか何かを言いかけて、けれどやめたのがわかった。
私の目が、未だにぼうっと前を向いたままだからだろう。
…隣から視線を感じるけれど、私はそちらを見ない。
しばらくして、優しい声が返ってきた。
「……ん、いいよ。何話したらいい?」
私はその声に、耳を傾ける。
「…なんでもいいよ。声が聞きたいから」
その声が、私を癒してくれる。
少しだけ高い、柔らかな声が、私を思い出した記憶から遠ざけてくれる。
私の言葉に、ルトは驚いたように沈黙した。
けれど、私は絶対にそちらを見ない。
....見たらきっと、これ以上に甘えてしまうから。