月夜の翡翠と貴方
「…………………………」
店内が静まり返る。
客の視線が、怯えと恐怖と好奇の目が、こちらを見ている。
「…早く店を出たほうが良さそうだな」
ルトがつぶやくと同時に、私も頷き席を立った。
前を悠然と歩くルトの後ろをついて行く。
客の視線にはいくらでも耐えられるのに、今、彼に視線を寄越されるのは、とても怖いな、と思ってしまった。
*
真っ直ぐに宿へ向かうルトの背中を追い、着いたのは今にも崩れそうな建物だった。
ルトは何も言わず、こちらを見もせず、中へ入る。
ギシギシと床が鳴って、不安を煽られて仕方ない。
速やかに部屋をとったルトは、やはり無言で階段を上がる。
私は黙ってあとをついていくだけだった。
今、ルトは何を考えているのだろう。
まず、謝らなくてはならないことがたくさんある。
言わなければならないであろうことも、ある。
けれど、どう話せばいいのかわからない。
ルトから何か訊かれたとき、平静に答えられる自信がない。
パタン…………
静かに部屋の扉を閉めると、ルトが荷物を置いて寝台に勢いよく倒れ込んだ。
「…………っかれた」
はー、と息を吐く。
私も荷物を置くと、寝台の手前の椅子に腰掛けた。