月夜の翡翠と貴方

「…………………………」


店内が静まり返る。

客の視線が、怯えと恐怖と好奇の目が、こちらを見ている。


「…早く店を出たほうが良さそうだな」


ルトがつぶやくと同時に、私も頷き席を立った。

前を悠然と歩くルトの後ろをついて行く。


客の視線にはいくらでも耐えられるのに、今、彼に視線を寄越されるのは、とても怖いな、と思ってしまった。






真っ直ぐに宿へ向かうルトの背中を追い、着いたのは今にも崩れそうな建物だった。

ルトは何も言わず、こちらを見もせず、中へ入る。

ギシギシと床が鳴って、不安を煽られて仕方ない。

速やかに部屋をとったルトは、やはり無言で階段を上がる。

私は黙ってあとをついていくだけだった。

今、ルトは何を考えているのだろう。

まず、謝らなくてはならないことがたくさんある。

言わなければならないであろうことも、ある。

けれど、どう話せばいいのかわからない。

ルトから何か訊かれたとき、平静に答えられる自信がない。


パタン…………

静かに部屋の扉を閉めると、ルトが荷物を置いて寝台に勢いよく倒れ込んだ。

「…………っかれた」

はー、と息を吐く。

私も荷物を置くと、寝台の手前の椅子に腰掛けた。



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