月夜の翡翠と貴方
「……ねむてー………」
こちらから顔は見えないが、 顔を手で覆っている。
「…………寝ていいよ」
心底眠いに違いない。
言うと、ルトは静かに起き上がった。
「………まだ、寝ない」
「……なんで?」
「起きたら、お前がいなくなってそうだから」
茶髪から覗いた深緑が、こちらを見つめていた。
私の橙を真っ直ぐに捉えた瞳に、一瞬息を飲む。
……ルト。
「…いなくならないよ」
「いや、今のお前ならあり得る。いつの間にか消えたりされたら、困るんだよ」
…消える、なんて。
どうして、そんなことを思うんだ。
何故、そんな強い瞳で見るんだ。
「…だから、どこにも行かないってば」
「そんなんわかんないだろ」
「じゃあ」
無意識にでた強い声に、ルトが驚いた顔をした。
「もしもいなくなったら、探して」
気持ちのまま口から零れた言葉に、私自身も驚く。
ルトが、目を見開いている。
…ああ、また、私はなにを。
それ以上言うのをやめると、ルトは私を無言で見つめた。
そして、深緑を少し細めて、言った。
「………当たり前だろ。逃がさないって言ったじゃん」
微かに弧を描いた口元に、どくんと心臓が小さく波打つ。