月夜の翡翠と貴方
ルトは静かに私を見上げると、おもむろに腕を上げ、私の頬に触れた。
「…ごめんは、聞きたくないんだけど」
その言葉の意味を察して、私は少し眉を下げた。
そして、ぼそり、と、彼の望んでいるであろう言葉を呟く。
「…ありがとう」
言うと、満足気に笑った顔が目に映った。
『こいつは俺のものだ』と言った、あの声が耳にこだまする。
「…訊かないの?あの人たちのこと」
怪我を負ったり、閉じ込められたりと、ルトは凄く迷惑しているはずだ。
ルトは、こちらを見ていた目を伏せると、「訊きたくないって言ったら、嘘になるけど」と言った。
「…言いたくないなら、無理に言えとは思わない。誰だって言いたくない過去ぐらいあるだろうし、お前が言えるときに聞くよ」
その言葉に、胸が苦しくなった。
何故、そんなに優しいのだろう。
自分が買った奴隷によって、怪我まで負ったというのに、何故そんなに気遣えるのか。
「自分のことを必要以上に言わないのは、俺だってそうだよ」
「…訊いたら教えてくれるの?」
「さあ」
そう言って、笑う。
その笑顔は明るくて、けれど確かな苦しみが見て取れて。