月夜の翡翠と貴方



貴方が手放さない限り、私はここにいる。貴方についていく。



私は、貴方のものなのだから。






六年前、私は惨めな奴隷となった。

何故この私が、とは思わなかった。

あるのは、悲劇のような運命を辿る自分への、漠然とした哀れみと、

あとから押し寄せる後悔と、自分への怒りだけだった。






寝息をたてて眠るルトの寝顔を見ていると、宿の窓から馬車の音が聴こえた。


窓の外をみると、薄暗い夕方のディアフィーネの村に、豪勢な馬車が大通りを通っている。


村の人間は、貧困の村を通る貴族馬車に、驚いて目を見張っているようだった。

なんだ?

一体、どこへ向かっているのだろう。

何故、あんな貴族の使う馬車が。



…レグート?


…いや、彼じゃない。

レグートは、私の動向を見ていると言った。

恐らく彼は、何処かの貴族の雇われだ。

それこそ、ルトと『同業』の。

私に恨みをもった…正確には、私のいた『家』に恨みをもった人間の命令だろう。


「……………………」


私は、静かに服の裾を握りしめた。

…もう、終わったと思っていた。

あの名前を、もう二度と呼ばれるはずはないと。






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