月夜の翡翠と貴方


けれど、そんな甘さは油断にすぎなくて。

私は結局、あの家に縛られるしかないのだ。


『私』は静かに目を閉じる。


この碧色の髪を持つ限り、私は『マリア』で奴隷なのだ。


けれど、ルトははっきりと言った。


『こいつは俺のものだ』と。


碧色の髪から名付けられた『ジェイド』の名がある限り、私はルトのもの。

マリアじゃない。


それだけで、私の心は平静を保つことが出来た。






ノワードとの約束通り、翌朝宿を出てオリザーヌの邸へ向かった。

「……傷、どう」

通りを歩きながら声をかけると、ルトは小さくあくびをしながら「大丈夫」と言った。

もう、昨日のような気まずさはなかった。

そのことにほっとする一方で、気まずくなった原因であった、ルトの不自然な目の逸らしが気になる。

しかし、それを訊く勇気など私にはない。

通りを歩いていると、若い女と男とすれちがった。


「ねぇ、昨日の夕方の馬車見た?あれ、オリザーヌ家のご令嬢の婚約者が乗ってたらしいわよ」


オリザーヌの令嬢?


「…セルシア嬢のことか」

話が聞こえたのか、ルトが隣で私が思っていたことを呟く。


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