月夜の翡翠と貴方
ノワードは女の言葉に、はぁ、とひとつ大きなため息をついた。
「…きっと中庭にいらっしゃるだろうから、探してきなさい」
「は、はい…」
返事と共に、召し使いの女はまたバタバタと廊下を走って行った。
「すみません、騒がしくて」
「あ、いえ………」
申し訳なさそうに謝るノワード。
返事をしたルトが、眉を寄せた。
「…セルシア様、婚約されてるんですね?」
ルトの言葉に、ノワードは「知っておられるのですね」と苦笑いを浮かべた。
「村人が話しているのを耳にしまして」
「そうですか」
この、ノワードの複雑そうな表情はなんだろう。
この場にセルシアはおらず、召し使いはいなくなったと知らせにきた。
昨日も、セルシアは邸を抜け出していた。
何かあったのだろうか。
手当を終え、ノワードに礼を言うと、私達は邸を出た。
花々が咲き誇った庭を歩く。