月夜の翡翠と貴方
綺麗だな、と思う。
そして、残酷だな、と思う。
この庭を出れば、花一輪さえ育てることの出来ない地に入る。
この花一輪が咲くために、一体どれだけの人の苦しみがあるのだろうか。
取り立てによって咲き誇った花々の美しさに、どれだけの価値があるというのだろう。
庭を出ようとしたとき、そばの木陰からガサ、と音がした。
「あ、あのっ…!」
見ると、そちらにいたのは木と草花に隠れるようにしてうずくまる、セルシアだった。
「え………なにしてんの」
ルトが驚いて、眉を寄せる。
…何故、そんなところに。
セルシアは周りをキョロキョロと見渡すと、こそっとこちらへ近づいてきた。
「村を出られるのですか…?」
小さな声で眉を下げて言うセルシアに、ルトが不思議そうに「ああ」と返事をする。
「じゃ、じゃあっ…」