月夜の翡翠と貴方
無知、富の代償、捨てられた聖女
何も知らないふり、
何も見ないふり。
わたしは何もわからない。
幼い私はそれを理由にして、知ることから目を背けた。
優しく笑ってくれていた母の顔が、怯えと恐怖に染まり、
寡黙だったけれどなんでも包み込んでくれるような、
そんな温和な父の顔が理性を失ったのを見たとき、
一瞬で自分を呪った。
弱いわたしでごめんなさい。
甘えて、現実から目を背けてごめんなさい。
『恨むのなら両親を恨めよ』
そう言ったあの人の言葉が、忘れられない。
『わたしが悪いから』と言えなかった、
私はやはり、弱くて醜い。
*
「……連れていって…って……?」
ルトが眉を寄せて、目の前の少女を見つめる。
桃色の美しい髪を横にひとつで結び、上品な純白の召しものに身を包む彼女は、貴族令嬢そのもので。
彼女は唇を噛みしめて、声を震わせた。
「…そのままの意味です。私をこのディアフィーネから…私を知る人間が誰もいないところへ、連れていって欲しいのです」
その言葉に、ルトと私は益々眉を寄せた。