月夜の翡翠と貴方
「なんでそんなこと………」
そのとき、中庭の奥から「お嬢様」と言ってセルシアを呼ぶ女の声がした。
召し使いが、彼女を探しにきたのだろう。
「…邸の外に行きましょう」
セルシアはそちらを見やると、私達を庭の外に出るよう促した。
*
風がふくと、ガタガタと音を立てて揺れる、小さな空き小屋に向かった。
それは、上層と下層をつなぐ階段のすぐ近くにあった小屋で、セルシアは得意げにその扉を開いた。
「入っていいのか?」
「大丈夫です。いつも邸を抜け出したときに来ていますが、まだ小屋のなかで人に会ってはいません」
いつも、邸を抜け出したとき…
セルシアの言葉に、ルトが眉を寄せる。
「….その、邸から脱け出す、ってさ…どーゆーこと?」
セルシアは静かに、古びた木製の小椅子に腰掛けた。
「私が、隣町モンチェーンの貴族家のご子息と婚約しているのは、ご存知ですか?」
ルトと私も、近くにあった椅子に座る。