月夜の翡翠と貴方


「なんでそんなこと………」


そのとき、中庭の奥から「お嬢様」と言ってセルシアを呼ぶ女の声がした。

召し使いが、彼女を探しにきたのだろう。

「…邸の外に行きましょう」

セルシアはそちらを見やると、私達を庭の外に出るよう促した。






風がふくと、ガタガタと音を立てて揺れる、小さな空き小屋に向かった。

それは、上層と下層をつなぐ階段のすぐ近くにあった小屋で、セルシアは得意げにその扉を開いた。


「入っていいのか?」

「大丈夫です。いつも邸を抜け出したときに来ていますが、まだ小屋のなかで人に会ってはいません」

いつも、邸を抜け出したとき…

セルシアの言葉に、ルトが眉を寄せる。


「….その、邸から脱け出す、ってさ…どーゆーこと?」


セルシアは静かに、古びた木製の小椅子に腰掛けた。


「私が、隣町モンチェーンの貴族家のご子息と婚約しているのは、ご存知ですか?」


ルトと私も、近くにあった椅子に座る。



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