月夜の翡翠と貴方


セルシアはふふ、と悲しそうに微笑んだ。


「……愛のない結婚…なんです」


ルトは、ますます難しい顔をする。

いくらなんでも、いち平民か、それ以下に等しい私とルトでは、どうすることもできない。


「……悪いけど、俺らには何もできないよ」


ルトは静かにそう言うと、席を立った。

セルシアはそれを見て、慌てたように席を立つ。


「つ…連れて行っていただけるだけで良いのです。ご迷惑はおかけしません。お金なら邸からきちんと持って来ますし…」

「そういうことじゃないんだよ」


ルトの困った顔を見て、セルシアは眉を下げた。

けれど諦めきれないのか、取り繕おうと必死だ。

「でもっ…………」


「セルシア様」


そう呼んだのは、ルトではなかった。

二つの視線が、こちらへ向けられる。


咄嗟に口から出た言葉は、私のものだった。

聞き捨てならなかった。

聞き流しては、おけなかった。


セルシアは、ずっと黙っていた私の声に、驚いているようだった。

私は静かに、感情を殺して言葉を口にする。


「…お気持ちはわかります。誰だって、よくも知らない人と、生涯を共にする約束をするのは、怖いでしょう」

「…ええ」


私の言葉の意図がわからない、という顔をするセルシア。


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