月夜の翡翠と貴方
彼女の穢れなき良心が、唐突に突きつけられた真実に、悲鳴を上げている。
「…わかったわ…わかったから…それ以上言わないで」
床に崩れ落ちたセルシアは、瞳に涙を浮かべていた。
「…すみません。責めるような口調になってしまいました」
ただ、ただ。
これ以上、セルシアに罪を重ねて欲しくなかった。
何も知らずに、与えられた贅沢をそのまま受け入れる。
幼い頃からそうだったからこそ、それを罪だと自覚せずに受け入れてしまう。
…そう、それが。
私は、拳を静かに握りしめた。
幼い頃の私、『マリア』の罪だった。
「セルシア様」
呼ぶと、セルシアは涙をこぼして顔を上げた。
私は、苦しげに目を細める。
「…他の街へ、行ったことはありますか?」
「………ええ」
「どう感じましたか?」
素直に、感じたままに。
セルシアは、もう質問の意図がわかったのか、目を伏せ、唇を震わせた。
「…とても、明るいと思いました。ディアフィーネとは、全く違うと」
セルシアの言葉に、優しく微笑んだ。