月夜の翡翠と貴方
セルシアはひとしきり泣いたあと、鼻をすすりながら、こちらへ頭を下げて来た。
「…ごめんなさい…馬鹿げたことを言って、困らせてしまったわ」
私とルトは顔を見合わせると、少しだけ笑った。
「いいよ。もうそんな『馬鹿げたこと』、考えないようにしてくれれば」
ルトが明るく笑うと、セルシアも眉を下げ微笑んだ。
そして、こちらを向いた。
思わず、どきりとする。
厳しく言ってしまってたから、なんだか申し訳ない。
けれどセルシアは、私へ優しく笑いかけた。
「…あなたも、どうもありがとう。私、きっと誰かに止めてもらえることを、待っていたんだわ。叱ってくれて、感謝しています」
「…い、いえ…」
ふたりで会釈しあうと、やがて目があい笑いあう。
彼女が、理解ある少女でよかった。
突然あんなことを言ってしまったが、ルトはどう思っているだろう。
今こそ平然と笑っているが、心のなかでは様々なことを示唆しているに違いない。
少なくとも、私が数年前までどんな立場の人間だったかは、もう察しがついているはずだ。