月夜の翡翠と貴方
「邸まで送ってから、村を出る」と言ったルトに、セルシアが眉を下げた。
「…お急ぎなのですか?」
「いや、そんなこともないけど…」
ルトの言葉に、セルシアが何か言いたげに私のほうを見て来た。
「…? どうかされましたか」
「…あ、えっと………」
セルシアは少し躊躇いを見せたあと、勇気を出したように、ぱっと私へ頭を下げた。
「あっ………貴女に、お願いがあるんです!」
…えっ?
「お願い…私に?」
ルトでなく、私に?
「ええ…!私を容赦無く叱りつけてくれた、貴女に!是非ともお願いしたいことがあるの…!」
あれでも、だいぶ容赦したほうだったのだが……
いや、そんなことより。
「ル、ルト……」
旅の中断に値する事は、ルトの判断による。
彼も突然のことに驚いているようだったが、直ぐに「ん〜…」と言った。