月夜の翡翠と貴方


「…その、お願いの内容によるな」

セルシアは、ぱっと顔をあげると、「まだ、自信がないんです」と言った。

「…もう、婚約から逃げようとは、思いません…けれど、まだ私、自信がないんです。婚約者様…ロディー様の前で、きちんと振る舞うことができるか、不安で」

俯きがちに、スカートの布地を握りしめるセルシア。

「…それで、私はどうすれば…?」

「率直に言いますと、横で、叱って頂きたいのです」

「…………」


わ…私が。

よもや貴族の令嬢を、叱る?


「……そっ、そんなことできません…!」


慌てて後ずさるが、やけに熱のこもった目をしたセルシアに、ガシッと手を掴まれた。


「先程のように、叱責して下されば良いのです。もちろんタダとは言いません。お礼はきちんといたします」

「で、でも………」


お金はいらない。

そう言おうとしたとき、ルトが「金は欲しくない」と言った。

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