月夜の翡翠と貴方
「…俺たちにくれる金があるんなら、ここの村人に分け与えて欲しい」
ルトの真剣な顔に、セルシアがハッとした顔をする。
「ご…ごめんなさい。私、そんなつもりは」
「わかってるよ。ジェイドを貸す代わりに、ひとつ約束して欲しい」
えっ、私の意思は無視なのか。
いや、ルトがそうしろと言うのなら、私は承諾するしかないのだが。
「なんでしょう?」
ルトはセルシアを真っ直ぐに見つめると、優しく微笑んだ。
「…結婚がうまく行ったら、次俺がこの村を訪れるとき、少なくとも路上に座り込んでいる人間はいないようにして欲しい」
…俺が、か。
ルトのなかではもう、次にこの村を訪れるとしたら、そのとき私はもういないことになっているのだ。
そう思いながら、しかし何とも、その約束はルトらしいものだな、と思った。
ルトが、微かにこちらへ視線を向け、に、と小さく笑う。
私がそれを望んでいたことを、わかっていたようだった。
出された条件に、セルシアは静かに頷いた。