月夜の翡翠と貴方


驚いていると、ルトが私の顔を覗き込んだ。


「……お前は、大丈夫?」


何処か、心配するような表情。

「……………」

…わかって、いるのだ。きっと、もう、ほとんど。

私が、幼い頃どんな人間だったか。

私が、それに対して、あまり快い思い出を持っていないこと。

昨日、セルシアの邸を訪れたあと、私の体調が悪かった、その原因。

…私が…夜会にでることに、あまり気が進まないこと。


その全てをわかって、今私に、『大丈夫』か、と訊いているのだ。


「……私……………」

セルシアが、不安そうにこちらを見ている。

…私に協力できることがあるのなら、したい。

けれど、怖い。

思い出すのが、怖い……………。


でも、ルトが隣にいてくれるのなら。


大丈夫、かもしれない。


「………わかりました。夜会、出ましょう」


そう言うと、セルシアはぱあっと顔を明るくさせた。


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