月夜の翡翠と貴方
きっと明日の夜は、私にとって大事なときになる。
ルトが隣にいてくれれば、きっと大丈夫。
そう信じて。
心のなかで、ごめんね、と呟く。
いずれ私を捨てて行く、隣の主人へ。
今だけ、私のご主人様。
今だけ、私は貴方のものに。
隣で明るく笑う貴方を、信じたい。
*
ノワードに事情を話すと、彼は快く邸の一室を用意してくれた。
「今日の夜と明日は、どうぞこの部屋を使ってくださいな」
セルシアが微笑んで、扉を開ける。
そこは、あまり家具の装飾の少ない簡素な部屋だった。
ルトがノワードに、豪華な部屋は遠慮したい、といったのだ。
「しかし…ずっと駄々をこねてらっしゃった婚約を、突然承諾されるなんて…一体どうやって説得してくださったのですか」
ノワードが、不思議そうに私たちを見つめる。
私は苦笑いをして、「少しお話をしただけですよ」と言った。
ノワードはそれ以上は何も訊いてこず、「その気にしてくださりありがとうございました」と、笑顔で去って行った。