月夜の翡翠と貴方
「どこまで?んー…そーだな。とりあえず、ジェイドがお嬢様だったんだろーな、とは思ってるよ」
やっぱり。
そう思いながら、簡素な部屋を見渡す。
わかっていなければ、こんな気遣いはできない。
豪華な部屋にすれば、私が嫌な事を思い出すだろうと、わかっているのだ、この男は。
「他には?」
「あとは…なんか辛い事があって、奴隷になってるんだろーなぁ…ぐらい?」
合ってる?と、ペンを走らせながら、ルトが優しく笑う。
「……合ってる」
そうだ。
ルトの、思っている通り。
「私、リズパナリ家の長女だったの」
突然話し始めた私を気にする事なく、ルトはペンを動かし続ける。
口元に笑みを浮かべて手紙を書くその姿は、なんだか余裕そうだ。
ひとつしか歳は違わないのに、急にルトが大人びて見える。
「リズパナリは、もともと下級貴族でね、今はもう当主が失脚してしまっているけど…」
私はいわば、没落貴族の一族の娘。