月夜の翡翠と貴方


でも、みんな私に優しかった。

なにも気にしなくていい、と言われた。

だから、甘えてしまった。


「踊りの稽古に励んだ。教養を充分に身につけて、いつか良い家に嫁いで、リズパナリのためになるように、容姿も磨いてた」

母親と同じ、この橙の瞳が好きだった。

みんなが褒めてくれた、この髪が誇りだった。


ルトが、手紙を書き終えたのか、便箋を封筒にいれる。


「……でもそんなの…結局ただ、逃げてるだけだったの」


家の事から。

知る事から。

与えられた優しさに、ただただ知らないふりして甘えていた。


その報いが、今の私だ。


「私が十二歳のときに…ナタナっていう男が、家に度々来るようになったの。彼は上級貴族で、爵位もあった」

その頃からだ。

両親に、兄、使用人たちの様子がおかしくなったのは。

両親は、いつにもまして、暗い表情で。


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